漫画の海賊版サイトのデータを送信し、著作権を侵害したとして出版大手4社が米国IT大手のクラウドフレアに損害賠償を求めている訴訟の判決が19日、東京地裁であった。高橋彩裁判長は同社に約5億円の賠償命令を言い渡した。

クラウドフレアは大容量コンテンツの配信に不可欠とされる「コンテンツ・デリバリー・ネットワーク」(CDN)事業者大手。判決は同社のサービスが海賊版サイトによる著作権侵害行為を容易にしたと認め、「著作権侵害のほう助行為に当たる」との判断を示した。
原告はKADOKAWA、講談社、集英社、小学館の4社。2つの海賊版サイトがクラウドフレアのサービスを使って「ONE PIECE(ワンピース)」「進撃の巨人」など人気作品を含む約4千点の漫画を違法配信し、月間3億アクセスを超えていたとして各社1億2650万円ずつの賠償を求めていた。
裁判では海賊版サイト運営者にサービスを提供したCDN事業者にも法的責任が及ぶかが争点だった。
19日の地裁判決は海賊版サイトの運営者はクラウドフレアのサービスを利用することでサーバーの負荷を分散し、大量のアクセスを処理することができたと言及。利用契約を結ぶ際の本人確認手続きも行われなかったと推認されるとし「強度な匿名性が確保された状況下で効率的に配信できた」と指摘した。
さらにドメイン名などから海賊版サイトであることは一見して明らかで、出版社側から米デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく通知を受けた時点で著作権侵害を認識できたと認定。通知から1カ月以上たってもサービスの提供を停止する義務を果たさなかったと結論付けた。
訴訟でクラウドフレア側はCDN事業者はデータ配信を仲介していたに過ぎず、あくまで配信主体は海賊版サイトの運営者だと反論していた。出版社側による権利侵害の通知も法律で定める基準を満たしておらず法的責任は存在しないとも主張していた。
クラウドフレアは19日、海賊版対策の支援に国や著作権者側と共に取り組むとしつつ、「(判決について)非常に残念に思う。日本の技術的成長を促進する立法趣旨とは相いれず、新興企業の技術革新を阻害するリスクがある」などとして控訴する方針を表明した。
出版大手4社は判決で認定された損害額は4作品で総額約36億円に上ったとし、「CDNサービスの悪用防止に向けた一歩となることを期待している」などとコメントした。
CDNはコンテンツ配信に際し、世界中に分散配置するサーバーにオリジナルのサーバーの元データを複製することで、動画や画像などの大容量データの閲覧をスムーズにする仕組み。サイト運営者にとっては自らのサーバーの負荷も軽減できるため多くのウェブサイトが利用している。
かねて海賊版サイト運営の温床となっているとの批判も受けてきた。中でもクラウドフレアは無料サービスならメールアドレスのみで利用可能など本人確認の甘さが指摘されていた。総務省の有識者会議は2022年、CDN事業者に対して海賊版サイトによる利用を禁止する対応を求める報告書を公表していた。
著作権に詳しい田邉幸太郎弁護士の話
判決はサーバの負荷を分散する効果だけでなく、海賊版サイト運営者側との契約時に本人確認をしていなかった点も考慮し、クラウドフレアによる著作権侵害のほう助行為を認めた。
CDN事業者が契約を結ぶ際に本人確認手続きを正しくとるようになれば、海賊版サイト対策の実効性を高める効果が期待できる。
